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2013年 09月 19日
昭和・平成の「笠懸の旋風」
 台風18号が接近した平成25年(2013)9月16日深夜、みどり市笠懸町~大間々町を竜巻が襲い、多くの家屋や樹木に甚大な被害を及ぼしたぃね。

9月18日東京新聞より引用すっと
◆竜巻 強さは下から2番目のF1
 前橋地方気象台は十七日、みどり市などで十六日に発生した突風は「竜巻と推定される」と発表した。強さは六段階のうち、下から二番目のF1(約十秒間の平均風速三三~四九メートル)とした。
 同気象台によると、被害の発生時刻に活発な積乱雲が上空を通過しており、断続的ではあるものの被害は帯状に分布している点などから判断した。
 十六日午前二時二十分ごろ、みどり市や桐生市で突風が発生し、みどり市南部の笠懸町から中部の大間々町まで約五キロ、幅約二百メートルにわたって、南から北へ移動した。家屋の屋根瓦が飛散したり、ビニールハウスが倒壊したりする被害が出た。
 みどり市によると、市内では住宅百四棟の屋根瓦などが落下。同市に隣接する桐生市では、住宅三棟の屋根に被害が出た。

 オレも17日の出勤前に、この竜巻の通り道だったと思われる笠懸サッカー場に行ってみたで。ここは週末には少年サッカーがしょっちゅう行われてて、春には桜がおーかきれいな所さね。
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 このように何とも悲惨な状況。結構な大ぶりの桜が根こそぎ倒れたりしてるんで、竜巻の威力って相当なもんだぃなぁ。竜巻の通った笠懸地内は住宅の屋根が剥がされたり、ビニールハウスが壊滅したりと悲惨な光景があちこちで見られたで。悔しいことに竜巻は防ぎようもねぇし、今回みてぇに発生したんが夜中じゃ目視も効かねぇし、被災された方々は本当に不運で、お気の毒としか言いようがねぇやぃ。

 実はこの辺は平成20年7月25日にもダウンバーストに見舞われてるんだけんど、昭和10年(1935)には「笠懸の旋風」あるいは地元では「鹿の川大旋風」と呼ばれてる旋風(おそらく竜巻)で笠懸地区が壊滅的大惨事に見舞われたんを知ってっかい?

 1982年に編まれた『桐生消防史』(桐生市消防本部編)から、この当該の記録をがんばって打ち込んでみんべぇ。

昭和十年笠懸の旋風

 昭和十年九月二十五日午前九時頃(或は九時十五分頃)黒雲物凄くゴーと云ふ音響と共に襲来し周囲は暗黒となり戸外を見れば火炎の風下に於ける如く種々の破片飛来し瞬時に(一、二分とも云ひ五、六分とも云ふ)にして家屋は倒壊せりと云ふ。
 尚同村前鹿田(被害地の西方約一粁)にては同時刻東方にゴーと云ふ風声と共に大なる音響を聞きたりと(応援中の青年団員の談)又新田郡生品村(被害地の南南東約八粁)にては八時半頃急に天候険悪となりゴーと云ふ風声が上空を南より北に通過したりと(藪塚本町巡査部長派出所員談)
 以上により此の旋風は新田郡生品村の南方(利根河原尾島町附近?)に発生して漸次発達しつつ北進し、藪塚本町小学校附近にて其勢力地上に達し、此処にて家二戸の他樹木の被害を印し、弧を描きつつ北に進み原部落附近より道路に沿って進み、大字鹿附近に於て最も優勢となり後漸次衰弱して鹿田山の南東より東縁を掠め北西に去りたるものの如し。 新田郡笠懸村大字鹿及久宮一帯の延長南北六千米、東西三百米地内に養蚕飼育の為、屋内稼働中なる五名は住家倒壊と同時に其の下敷となり圧死し、その他重軽傷者四十七名を算し、尚全半壊合計百五十七棟七十七戸を数へ、養蚕家に於ける上蔟直前の蚕児は家屋倒壊と共に散乱し家畜は逸走し立木は根抜となる等被害地域は乱麻状態なり。
 連日の風雨が、九月二十四日午後より愈々激しく険悪の模様となり、翌二十五日午前八時五十五分頃異様な雲が南方新田郡薮塚本町方面より北方山田郡大間々方面に向かい一大旋風となり襲来し、瞬く間に笠懸村大字鹿及久宮地内一帯の建造物並立木を薙倒し、折柄養蚕飼育等の為、屋内に稼働中の事とて倒壊家屋の下敷となりたるもの多く、警鐘を乱打、救ひを求め居るとの駐在巡査の即報により、所轄桐生警察署長は、直に警察部長に報告すると同時に、桐生消防組桐生医師会桐生組合病院等に救援方依頼する一方、警察部衛生課並赤十字群馬支部の出張救援方申請し桐生医師会医師及署員を随へ現場に急行救護に努めたり。

当日の常備部勤務日誌
出勤 笠懸村二大旋風襲来シ家屋倒壊ノ報アリ、直チニ非番者ヲ召集シ、午前九時五十分組頭指揮ノモト現場ニ出発救援作業ヲ行フ

 『桐生消防史』と平成25年9月17日の『桐生タイムス』の記事を参考に1935年の笠懸旋風(青)、そして今回の2013年の竜巻(赤)の襲撃コースの概念図を作ってみたで。
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 わずか100年たらずの間に竜巻がこの地を2度も襲い、どちらも甚大な被害を及ぼしてるなんてなぁ・・・

 笠懸では、笠懸旋風の最大の被災地だった鹿の川(かのがわ)地区の名から「鹿の川大旋風」とも呼ばれてて、関連の史跡がいくつかあるんさ。

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感恩之碑(笠懸町鹿)

 「鹿の川大旋風」への全国からの救援に感謝の意を表した記念碑。天皇陛下からもお見舞金を戴いたとゆう。昔は現50号鹿交差点南の県道69号線沿いの消防団のところにあったっつー話だけんど、県道拡幅のために第七区公民館そばに移されたんだと。

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風害供養塔

 国道50号の沿いの国瑞寺には「鹿の川大旋風」の1年後に旋風犠牲者を弔うため、境内にお地蔵さまが建立されたんだと。基台には犠牲者の名前が彫られてるで。

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爪引き観音(笠懸町鹿 字山際)

 鹿田山の南の山際地区のにある観音様は“爪引き観音”と呼ばれ、「鹿の川大旋風」の際に「山際地区を守ってくれた」と言い伝えられ地元住民に大事にされてるんだと。

 気象庁やウェザーニュース社さんには竜巻の分析・研究を重ねていただいて、今後少しでも竜巻の予測・予報の精度を高めて、「減災」に役立ててほしいやぃね。オレたちも被災の歴史を忘れねぇようにしねぇとね。

 最後に今回の竜巻で被害に遭われた方々に衷心よりお見舞い申し上げます。


【2022/4/11 追記】

気象予報士・平井史生先生から、同日の天気図と解説をいただいたぃね!あんがと~!!
昭和・平成の「笠懸の旋風」_b0004675_16082435.png
原典:気象庁「天気図」、加工:国立情報学研究所「デジタル台風


【参考文献】
『桐生消防史』 p973-979 桐生市消防本部 1982
『桐生タイムス』 平成25年9月17日号
『笠懸村誌』上・下 笠懸村誌編纂室編 1983


【9月21日追記】
・概念図を、その後の情報を元に修正
・国瑞寺の風害供養塔の画像を追加

【2022/4/11 追記】
 旋風・竜巻の当日の天気図と解説を追加  (気象予報士・平井史生先生のご厚誼による)

気象庁のサイトでもまとめられてるで
平成25年台風第18号に関する群馬県気象速報 (PDF)
(2022年4月11日アクセス)


by dr_suzuki | 2013-09-19 00:01 | 東毛(+両毛)漫遊 | Trackback | Comments(6)
Commented by じろえもんばし at 2013-09-19 10:31 x
管理人さん、お久しぶり
多角的な視点からの解説に感服したで。
おかげで他の情報ソースの何よりも全容がわかってよかったど。
発生時にすぐNHKの夜中のニュースで報じられたんで、魂げて笠懸の実家に電話したぐらいだったんだで。
今後も見識のある記事を期待しているぞ。
Commented by dr_suzuki at 2013-09-19 13:32
▼じろえもんばしさん
お褒めを頂戴し恐縮至極。
群馬は安全神話があるんだけんど、まっと過去の地元の災害史とかにも注目したほうがいんじゃねんかねぇと思ってね。今後も東毛ネタとしてちっと掘り下げてみんべぇかと。
Commented by snow_air at 2013-09-20 19:00
早速拝見にきました!
群馬は災害が少ない場所だと思うけど、起こると大事になりそう・・・
近年、台風より竜巻が怖い(´・ω・`)
今回の台風もニュースで「群馬県みどり市の~」って流れてびっくり
どうみてもチラッと見えたのはファミブ・・・

遠く離れた地でも、こうして故郷のことが分かるのは、感謝です!
Commented by dr_suzuki at 2013-09-20 22:51
▼snow_airさん
竜巻はこわいやぃね。いつ起きるかわかんねぇし、起きても回避でぎねぇしね。
マイナーの極みの「みどり市」、こんなことで有名にならなくってもいいんにね。ちなみにあのファミブは大間々諸町のだぃね。
Commented by げきさか at 2013-09-20 23:36 x
それにしても自然の力は恐ろしいです。運動場の桜の写真など驚きです。
笠懸は昔も甚大な竜巻被害があったのですね。短期間のうちに詳しく調べてあってすごいなあと思います。「鹿の川大旋風」は地元では有名な話なのですか。
Commented by dr_suzuki at 2013-09-21 12:03
▼げきさかさん
竜巻に見舞われたお宅は更なる惨状さね。(ここには画像は載せねぇけんど)
実は平成20年のダウンバーストの時に、「鹿の川大旋風」のことを知ったんだけんど、いつかブログに書くんべぇかと資料を集めて・・・そのまんますっかり忘れてちゃってたんさね。今回のことがあったんで資料を発掘した次第。


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